Vol.36(16年7月)
第36回は『蓮華』(はすばな)
日本画の作品です。
ハスやスイレンを指して「蓮華(れんげ)」というそうです。
夏の朝、泥水の中から伸ばした茎の先の、尖ったたまご型のつぼみが
こぼれるように花びらを開くハスは神秘性を感じさせます。
「蓮は泥より出でて泥に染まらず」
仏教関連の意匠にさまざまなかたちで取り入れられているのは、
この花が持つ清らかさからでしょう。
ハスが美しいと評判の寺院に、スケッチブックを持って出かけました。
沼沢と違い鉢植えで手入れされているお寺のハスは、
近寄りいろいろな角度から眺められるので助かります。
白系の花、つぼみ、はちす(花托)、葉で構成して作品にしました。
夏の花らしく、イトトンボを二匹そえてみました。
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Vol.34(16年5月)
第34回は『深見草』(ふかみぐさ)
水彩画の作品です。
深見草はボタンの別名のひとつです。
日本画に「牡丹」という名の絵の具(顔彩)があります。
濃い赤紫のこの色は「花王」のボタンを表現するのに
ぴったりの色です。
赤紫の花色も好きですが、白色のボタンも心惹かれます。
初夏の宵、
月明かりの中にひっそりと、それでいて存在感を持って咲く
白系のボタンを描いてみました。
ボタンはやはり日本画の表現が合っていると思います。
花のボリューム、花を支える茎の伸び方、つぼみや葉のかたち。
昔から多くの日本画作家が描いてきました。
日本画手法にヒントを得ながら、水彩画の淡い表現で
月光に浮かび上がった白い深見草。
この花の魅力は深そうです。
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Vol.33(16年4月)
第33回は『爛熳』(らんまん)
日本画の作品です。
さくらは日本画の題材としてよく描かれます。
描いてみたのは枝垂れ八重桜です。
さくらの枝にメジロを配してみました。
メジロの名前の由来は眼のまわりが白いので「目白」、
また、刺繍の縫い取りのようにも見えるので
「繍眼児」とも書くようです。
メジロに限らず小禽は動きが早くてモデルには不向きですが、
それがかえって絵心を誘います。
メジロの画では、榊原紫峰の「梅花群禽(足立美術館)」が有名です。
巣立ち前の雛たちが枝に寄り添って止まっているすがたは、
「目白押し」のことばの由来を教えてくれるような作品です。
つがいのメジロも仲が良いと聞いたことがあります。
枝垂れ八重桜に二羽のメジロ、
春爛を作品にしてみました。
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Vol.32(16年3月)
第32回は『木蘭』(もくれん)
日本画の作品です。
日本画の巨匠の一人「橋本関雪(1883~1945)」が
審査委員をつとめた、第12回文展(文部省美術展覧会)の
出展作品に「木蘭(Mu Lan)」があります。
中国の伝承文芸の「木蘭詩」を題材とした大作です。
隋の時代、老病の父の身代わりに男装して軍隊に入る娘「木蘭」。
この作品は戦も終わり、帰郷する途中の川岸で
馬から降りて佇む時の娘にかえった表情が愛おしい、
私の大好きな日本画です。
「もくれん」は「木蘭」とも「木蓮」とも書きます。
昔は花がランに似ているところから「木蘭(もくらん)」と
呼ばれていたそうです。
春、天に伸びた枝に赤紫色に咲く「もくれん」の花を観ると
関雪の叙情あふれる作品を思い出します。
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